ここは火星の地球人専用居住区のコロニーである。
西暦2300年7月に地球を出発した1000隻のスペースシップで2億3千万キロ離れた火星に3ヶ月かけて到着した3000万人が新たな生活を始める場所である。もちろんアメリカ大統領チンキーと国務長官ムーラのさじ加減で選ばれた3000万人の地球人である。というより正確には3000万人のアメリカ人である。
コロニーの中はドーナツ状に建物が配置されており、移住者にはそれぞれID番号が付けられ、そのID番号ごとに部屋が与えられた。
「何だこの部屋は?何かでっけぇカプセルホテルみてえだな。」クーポはフービーにそう言った。
「だが、広さといい設備といい、軍の宿舎とは大違いだぜ。俺は気に入ったね。」フービーがそう答えると部屋のスピーカーから聞き覚えのある声がした。
「我が親愛なるアメリカ合衆国の皆様!私は大統領のチンキーです。本日火星時間の午後1時より重大なお知らせがありますので、コロニー中央広場にお集まり下さい。」
「すげえ数の人間だな!一体何人いんだ?なぁフービー! おっ!大統領が出てきたぞ!」クーポがそういって指を指した先にはアメリカ大統領のチンキー、国務長官のムーラ、そして何と火星人、あのリトルグレーが立っていた。
「我が親愛なるアメリカ合衆国の選ばれし諸君!私が今からいう事をしっかりと受止めて欲しい。」大統領は続けた。
「実は我々が地球を出発した1ヵ月後の8月に地球は滅亡しました。」大統領がそう言うと一斉にどよめきが起こった。
「地球が滅亡ってどういうことだ?じゃあ残された人達は?第2陣、第3陣でやってくる人達はどうなったんだ?」
3000万人が一斉に騒ぎ立てた。それもその筈、予定では今後1年かけて全人類の半分が火星に移住する事になっていたのだ。
「皆さん、ご静粛に!どうかご静粛に願います。」国務長官のムーラが3000万人を制する。続けて大統領が口を開く。
「皆さんもご承知の通り、世界くじ引き首脳会談が8月に北朝鮮で開催されました。どうもその席で酒に酔った勢いで金正月総書記が核ミサイルのボタンを押したのではないか?との推測がなされてます。何しろもう地球は跡形もなく吹っ飛んだものでして、調査のしようもないのです。」参った参ったペチペチとおでこを叩く大統領。
「ですからここにいる皆様が地球最後の生存者なのです。皆様はアメリカ合衆国を代表する各方面のスペシャリストです。そして我々地球人の総人口は3000万人。つまり、ここにお集まりの皆さんが今後の地球人の未来を作るのです。」
大混乱のなか大統領の演説は終わり、地球から火星に移住してきた3000万人の生活がスタートした。
「おい!フービー!」リビングのソファから立ち上がったクーポが窓の外を見て言った。
「ここから出ねえか?」まじめな顔でフービーを見た。
「出てどうすんだ?何か当てがあんのか?毎日退屈だが、飯は配給されるしそれなりに不自由はないぜ。相棒!」
「てめぇはいつもあのルポポゾックゥワギュフェ体操だきゃ我慢ならねえって言ってるじゃねえか?そうだろ?フービー!」クーポがフービーに詰め寄る。
「まあまあ落ち着けよ、なあ相棒!」そうなだめると冷静にフービーが続けた。
「あのルポポゾックゥワギュフェ体操は一種の洗脳だ。約300年程前に北朝鮮で洗脳教育の一環として全小学生以下を対象にやってた律動体操の進化系だ、ありゃ。」
「なんだと?じゃあ俺達は今洗脳されてる最中って事か?おいフービー!」興奮気味にクーポが言った。
「ああ、間違いない。その証拠に地球滅亡の話を聞いてから1ヶ月も経たないでみんなおとなしくなっただろう?
おまけにこっちに来て1年も経つのに誰も働かねぇ。そしてそのことに誰も疑問を持たねえ。おまけにあのクソ銀色チビどもがコロニー内を歩き回っても誰も違和感を唱えねえ。そんでもって政治家や金持ちどもが明らかにいいとこに住んで、いいもん食っても誰も何にも言わねえ。毎日ルポポゾックゥワギュフェ体操を朝昼晩やって3度3度の食糧配給の生活で幸せを感じてやがる。こりゃ俺達はあのクソ銀色チビどもの研究対象なんだよ。」
「じゃあ何でここにいんだよ?それだけ分かっててなんでだ?おいフービー!それならなおさらここを出ようぜ!」
興奮するクーポにフービーは諭すように言った。
「まあ落ち着け。ここは食料も水も空気も重力もある。だがコロニーの外はどうだ?お前分かるか?あのクソ銀色チビどもは地球では生きていけたが俺達は火星で生きていけるか?それが分かるまではここで洗脳されたフリをしてるんだ。いいな!相棒。」
「1つ分からない事があるんだが、、、」クーポがフービーに聞いた。
「みんなが洗脳されてるって言ったよなぁ?じゃあ何で俺達は洗脳されてないんだ?おかしかねえか?」
「いい質問だクーポ。答えは簡単。お前が根っからのバカだからだ。あのルポポゾックゥワギュフェ体操には複雑な暗号が幾つにも組み合わさってインプットされてる。つまりは人間の思考の深層心理に脳のシナプスを経由して電気信号として徐々に伝達されるようようプログラミングされてるんだ。」フービーがそう言うとクーポが遮った。
「何言ってんだ?もっと分かりやすく説明しろよ!!」するとフービーが半笑いで続けた。
「なっ!要はそうゆうことだ。この程度の話も理解できない程バカだからお前は洗脳されないんだ。」
「じゃあいいよ!じゃあ俺が100歩しゃがんでバカだとしよう。じゃあてめえはなんで洗脳されないんだ?てめえもバカって事だろうが?ああ!」そういうクーポにフービーがゆっくり答える。
「第一に、100歩しゃがんでじゃなくて100歩譲ってだ。第2に、おれはリズム音痴なんだ。あのリズムに全く付いていけないんだ。あのルポポゾックゥワギュフェ体操はリズム通りに踊って初めて洗脳効果が出る。」自信満々にフービーが答えた。



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